有賀教平(ありが・きょうへい)さんは、レコーディングやライブ・サポートで活動し、SNSの演奏動画でも知られるギタリストです。『ギター・マガジン』では、そのネオソウルを軸にした演奏を、インタビューや奏法特集で取り上げてきました。12
その音楽の背景には、ソウルの名手だけでなく、アコースティック・ギターのデュオ、鍵盤、ベース、歌から得たヒントがあります。ここでは本人の発言を中心に、ルーツ、奏法、機材、仕事への考え方をたどります。機材や活動状況は、それぞれの掲載当時の情報として紹介します。
1. バンド活動から、劇伴やポップスの現場へ
2022年8月号のプロフィールでは、主な参加アーティストにOfficial髭男dism、フィロソフィーのダンス、竹内アンナさん、松田聖子さんらが挙げられています。歌のある音楽を支える現場と、個人の演奏スタイルを発信する場の両方で活動してきた人です。2
同号のインタビューで語られる仕事の入り口は、バンド同士のつながりでした。よく対バンしていたバンドのプロデューサーがドラマの音楽も手がけており、その縁から劇伴の演奏を依頼されるようになったそうです。それ以前には、バンドのほか、サポート、レッスン、レストランでの演奏も行なっていました。1
その後、SNSの動画を見たアレンジャーからレコーディングの依頼が届くようになります。取材当時、ポップスの仕事ではSNS経由の連絡が多く、ブラック・ミュージック寄りの曲で声がかかることが多いと説明しています。1
最初から仕事のジャンルが限定されていたわけではありません。当初はボカロ系や激しい曲も弾いており、演奏動画を通じて自分のスタイルが知られるにつれ、近い方向性の依頼が増えていったという流れです。活動の経緯からは、様々な現場で演奏する経験と、自分の得意な表現を伝えることの両方が見えてきます。1
2. ルーツは、ギタリストの外にもある
ソウルの名手と、鍵盤のコード・ワーク
2022年8月号で、有賀さんはラリー・カールトンやデヴィッド・T.ウォーカーの演奏を自分の核として挙げています。マリーナ・ショウの音楽などを通じて耳にし、コピーも重ねたそうです。さらにスタッフを挙げ、リチャード・ティーの鍵盤にも言及しています。1
面白いのは、影響の受け取り方です。ギターのフレーズだけを追うのでなく、鍵盤のボイシング、つまり和音の音の並べ方をギターへ移す。コードの内側の音が動いていく感覚や、鍵盤・ベースの音の表情も参考にしていると語ります。1
有賀さんの演奏を聴くときは、速い単音だけでなく、和音の中のどの音が動いているかにも耳を向けてみてください。
『Duet』から学んだニュアンスと自由さ
シルヴァン・リュックとビレリ・ラグレーンの『Duet』は、奏法の話と音楽観の話をつなぐ作品です。2022年12月号では、この作品からハイブリッド・ピッキングのニュアンスを学んだと説明。2024年2月号の推薦コメントでは、表現力やグルーヴを評価し、リズムへの考え方や音楽の自由さを教わった作品として紹介しています。34
また、2024年8月号では、マイケル・ジャクソンの歌に入る息遣いをギターで表現しようと研究し、左手のコントロールへ取り入れたと語っています。単音カッティングで大きな影響を受けたのは、ピック弾きのベーシスト、ボビー・ベガでした。歌やベースのリズムも、ギターを動かす発想になっているのです。5
2026年1月号で、自分にとってのNo.1として選んだのはアイザイア・シャーキー。サウンドとスタイルへの憧れを表明しています。好きな奏者を知ることは、有賀さん自身の音に耳を向ける手がかりにもなります。6
3. ピックと指、音の長さで表情を作る
指を使い始めた理由は、音量のコントロール
ハイブリッド・ピッキングは、ピックを持ったまま指も使って弦を弾く奏法です。2022年12月号では、有賀さんの実演フレーズを宮脇俊郎さんが解説。複数の弦を同時に鳴らせることや、弦を飛び越えるフレーズへの使いやすさが説明されています。3
本人が指を使うようになったきっかけは、レストランでのギター・デュオの仕事でした。ピックだけでは伴奏の音量を調整しにくく、少しずつ指を併用したところ、静かなニュアンスも出しやすくなったそうです。そこで重視しているのが、ピックと指で鳴らす音のバランスです。3
同じページのフォーム解説では、爪を短く整え、指の肉の部分で弾くこと、ピックの先端を大きく出しすぎないことも紹介されています。派手なフレーズの前に、狙った音量や音色を作るための工夫があるわけです。3
カッティングでは、鳴らしたあとまでコントロールする
2024年8月号のレクチャーで強調されるのは、左手のミュートと音価、つまり音の長さです。短く切る場面では押弦の力を加減し、音程のある音とアタック音の中間を狙うこともあると説明しています。7
右手は、ソロのときとほぼ同じ順アングルのフォーム。そのまま伴奏からリードへ移れることを利点に挙げています。逆アングルへ無理に変えるより、自分の手で扱える形を使うという説明です。7
使用ピックとして挙がるのはDunlop ULTEX JAZZ III。メーカーはUltex素材とJazz IIIの尖った先端形状を組み合わせた製品として案内しています。有賀さんは持ち替えずに弾けるよう手を慣らしたと語っており、同じ製品に替えればカッティングが上達する、という話ではありません。ソロと伴奏でピックを持ち替えることに悩む人には比較候補ですが、まずは慣れたピックでも試せます。78
練習への入り口として、次の二つを試してみてください。本人の説明を踏まえて組み立てた練習案です。
- ピックと指の音量を聴く。 同じ弦の同じ音を交互に弾き、指だけが強く飛び出したり消えたりしないか確認します。難しければ、速さを下げて一音ずつ比べます。
- 音の長さを変えて録音する。 慣れたコードを同じリズムで弾き、長く鳴らす場合と短く切る場合を比較します。短くしたときに拍まで急いでいないかを聴き、崩れるなら単純なリズムへ戻します。
4. 音作りは、弾き心地と手元の操作から
一つの歪みを、ギター側の操作で使い分ける
2022年1月号のペダル3台で組む企画では、フィルター、歪み、リバーブを選択。そのうち歪みはBenson Amps Preamp Pedalでした。ゲインを上げた音を作り、ギターのボリューム操作と組み合わせて使う考え方を語っています。2025年3月号でも、クリーン・ブーストからミドルゲインまでの弾き心地が、自分のスタイルに合うと推薦しています。910
メーカーによると、Preamp Pedalは真空管アンプの回路を基に、FETトランジスターを使って設計したペダル。クリーン・ブーストからオーバードライブ、ファズまでを用途として説明しています。アンプ風の歪みを足元で扱いたい人の候補になりますが、手持ちの機材でボリュームやタッチによる変化を作れているなら、まずその変化を確かめられます。11
なお、この3台の企画には、当時まだ所有していなかったリバーブも含まれていました。仮想ボードで選んだ製品と、実際の使用機材は分けて読む必要があります。9
マルチでは、アンプ・モデルを混ぜる
2020年10月号の「俺のボス」では、BOSS GT-1000の使い方を紹介しています。特に気に入っていたのは、2種類のアンプ・サウンドを混ぜられる点。VOX系とフェンダー系を組み合わせ、それぞれに足りないところを補う使い方を説明しています。12
メーカーも、1パッチ内で2系統のアンプ・モデルを扱い、切り替えやブレンドができると案内しています。複数の音色や足元の切り替えまで一台でまとめたい人には検討材料になります。一方、今あるマルチやプラグインで同様の構成を作れるなら、その機能を試すところから始められます。13
2022年8月号では、宅録の音作りはほとんどプラグインで完結すると説明しています。機材の種類が違っても、録音と現場で出したい音を保つこと、自分が気持ちよく弾けることを大切にしているのが分かります。2
さらに2024年8月号では、カッティングを完全なクリーンにせず、少し歪みを加えてピッキングの強弱で音色を扱う方法を紹介。これも本人の音作りの方針です。手持ちで比べるなら、音量差に注意しながら、コードの輪郭と弱く弾いた音の表情が残るかを聴いてみましょう。14
5. 個性を持ちながら、曲のために演奏する
2022年8月号では、レコーディングの演奏内容を任されることが多い一方で、良い作品を作るために一歩引いたり、何も弾かない選択をしたりすることも大切だと語っています。得意なフレーズを持つことと、その曲でどれだけ弾くかを判断することは、両立するものとして捉えられています。12
その判断を支えるのが、様々な音楽を聴いて、ジャンルごとの定番や流れを知る経験。アレンジャーから特定の作品やフレーズを示されることもあり、ルーツを知ったうえで自分なりに発展させることを重視しています。2
リズムの練習として挙げているのは、メトロノームを2拍目と4拍目に鳴らし、伴奏なしでソロを弾く方法です。ギターだけでも背後のドラムのビートを感じさせ、曲を成立させるようなイメージで取り組んでいたそうです。2
また、得意なジャンルを伸ばすことが武器になるとしつつ、まだ方向が定まらない場合には、様々なジャンルへ挑戦することも勧めています。自分のスタイルを探す人にとっては、今すぐ専門を決めるより、経験を広げながら相性の良い表現を見つけるという読み方もできます。2
6. 他のギタリストにも広がる影響
有賀さんの演奏は、ほかのギタリストの発言にも登場します。2023年12月号では、indigo la Endの長田カーティスさんが「ヴァイオレット」の話で有賀さんを挙げ、海外の奏者のフレーズを取り入れる演奏を参考にしたと説明しています。15
2025年8月号では、NEEの夕日さんが、Instagramでネオソウル系のギタリストをコピーしていたことに触れ、特に有賀さんから強い影響を受けたと語っています。本人の演奏動画が、別のバンドのギターを考える入り口にもなっていることが分かる例です。1617
実際の演奏を聴くなら、単音の動きに加えて、和音の内側の動き、音を切る瞬間、歌とギターの距離にも耳を向けてみてください。ルーツや技術の話を知ってから聴くと、どこを練習したいか、自分の演奏へ何を取り入れたいかも見つけやすくなるはずです。
奏法を詳しく学ぶなら、ハイブリッド・ピッキングは2022年12月号、カッティングは2024年8月号が手がかりになります。後者は公式のYouTube連動企画なので、誌面の解説と実演を合わせて確認できます。3718
出典・参考資料
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『ギター・マガジン』2022年8月号「気鋭ギタリストに聞くスタジオ・ワーク最新事情」有賀教平、p.70。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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『ギター・マガジン』2022年8月号「気鋭ギタリストに聞くスタジオ・ワーク最新事情」有賀教平、p.71。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7
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『ギター・マガジン』2022年12月号「有賀教平が直伝! ハイブリッド・ピッキング実践フレーズ」p.104。解説:宮脇俊郎、本人コメントを含む。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5
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『ギター・マガジン』2024年2月号『Duet』への有賀教平の推薦コメント、p.19。 ↩
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『ギター・マガジン』2024年8月号「有賀教平のモダン・カッティング・アプローチ」内コラム「ギタリスト以外のプレイヤーからもリズムを学ぼう」p.71。 ↩
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『ギター・マガジン』2026年1月号「オレの絶対的No.1!」有賀教平による選出、p.54。 ↩
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『ギター・マガジン』2024年8月号「有賀教平のモダン・カッティング・アプローチ」p.68。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4
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Dunlop「ULTEX JAZZ III PICK 1.38MM」。 ↩
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『ギター・マガジン』2022年1月号「続・もしも、ペダル3台だけでボードを組むなら?」有賀教平、p.33。 ↩ ↩2
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『ギター・マガジン』2025年3月号Benson Amps Preamp Pedalへの有賀教平の推薦コメント、p.40。 ↩
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Benson Amps「Preamp Pedal」。 ↩
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『ギター・マガジン』2020年10月号「俺のボス Vol.14」p.11。 ↩
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『ギター・マガジン』2024年8月号「有賀教平のモダン・カッティング・アプローチ」まとめ、p.75。 ↩
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『ギター・マガジン』2023年12月号「美しいクリーントーンで構築する哀愁のギター・アンサンブル」長田カーティスの発言、p.17。 ↩
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『ギター・マガジン』2025年8月号「カウンター・メロディが導く2020年代型ギター・アプローチ」夕日(NEE)、p.108。 ↩
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『ギター・マガジン』2025年8月号「カウンター・メロディが導く2020年代型ギター・アプローチ」夕日(NEE)、p.109。 ↩
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ギター・マガジンWeb「ギター・マガジン2024年8月号」。 ↩